ベランダに、仰向けにひっくり返って脚をバタバタさせているカナブンがいた。
死にかけているわけではなく、どうしても元のむきに向き直ることができず、もがいているようだった。
しばらく見ていたが、どうしてももどれないようだ。脚は絶えずバタバタしている。

簡単な家の用事を済ませたあと、またベランダを見たら、まだカナブンは仰向けで脚をバタバタさせていた。
ひっくり返してやりたいが、指でさわるのはこわい。
ベランダにあったほうきを掴み、その毛の部分を、仰向けにバタバタしている脚に押し付けてやると、カナブンはそれにしがみついた。
そのままゆっくりとほうきを持ち上げ、柄をベランダの手すりの縁でカンと叩くと、カナブンは飛び立った。
馬鹿みたいにまたベランダの方に来るのではなく、空の広い方へ広い方へと飛んで行った。
小刻みで速く、力強いカナブンの羽の動きが、喜んでいるように見えた。
あっと言う間にカナブンは、空に見えなくなった。