一日中デスクに座り、パソコンを操作しデータを作成する。
そんな仕事をしばらく続けていると無口になってしまった。

学生時代の友人から電話がかかってきた。普通に喋っているつもりだったが「お前、おもんなくなったな」と言われた。
そうかもしれない。かつてはあらゆる話題に対し、もっとウィットに富んだ返しをしていたように思う。
学生時代、友人たちと賑やかに会話し笑いあっていた自分。そんな記憶も信じられなくなってきている。
このままではいけない気がして、本の音読をはじめた。
これまでよりも少しだけでもいいから、一日のうちに声を発する機会を増やそうと思ったのだ。

そんな音読だが、うれしいことに、声を発する練習になる以外にも大きなメリットがあった。
本の内容がとても明快に頭に入ってくるのだ。
そのメカニズムはこうなのではないか? と考えた。
字を目で読むこと、それを声に出すこと、その声を聞くこと。
ひとつの文章に対し、その三つの働きを脳が行っている。それにより、3回読んだことと同じような効果をもたらしてくれているのではないか。
さらに声に出すことで読むスピードが必然的にゆっくりになる。ゆっくりになることで、その文章に書かれていることに対して自分の意見や反論などを考える余地ができる。
これも本の理解に一役買っているのではないかと思う。

電話が鳴っている。学生時代の友人からだ。
音読によって学生時代のおもしろさを取り戻し、教養も身に付けた私を披露してやりたいが、無視することにする。
私はこのままずっと音読をしていたいのである。