会議前日の帰路だった。ようやくアイデアが思い浮かんだ。
妙案だった。スマホを取り出し、エバーノートのアプリを起動する。メモする手は大きく震えていた。
きっとあれだ。将棋の羽生善治永世竜王が、勝ち筋が見えたときになるのと一緒のやつだ。

翌日の会議の冒頭で、そのアイデアを披露した。
大した反応は得られず、すぐさま次の話題に移った。
焦りすぎた。まだ会議自体も温まっていない状態で、参加者もそれを受け入れる準備ができていなかったのだ。
タイミングを見計らい、もう一度そのアイデアを披露した。反応はさっきよりも薄く、すぐさま次の話題に移った。

羽生さん、何であのとき私の手は震えたのでしょうか?