―うれしさにはつ夢いふてしまひけり

という正岡子規の俳句がある。
めでたい正月の、何となくうれしく浮き足立った雰囲気が感じられて好きな句だ。

初夢は人に言わない方が良いとされているのに、つい言ってしまったのだ。
よほどうれしい夢だったのだろう。

そんなうれしい夢とは、どんなものだろう。
富士山と鷹と茄子がいっぺんに出てくる夢なんかはどうだ。
むかしから初夢で見る縁起ものとして「一富士二鷹三茄子」などと言われる。
富士山が一番、二番目に鷹、三番目に茄子の夢を見るのが良いのだ。
それがいっぺんに初夢に出てきたとなれば、うれしくてつい人に言ってしまうかもしれない。

「ちょっと聞いてや。初夢見てんけどな。すごいねん。富士山登っててんやんか。まずこれで一富士やん? ほんでまあ中腹くらいかな、休憩しよう思って座って弁当開けたら鷹におかずの茄子獲られてん。わかる? 二鷹、三茄子。すごない? いやー、初夢って人に言わん方がええとか言うけど、富士・鷹・茄子コンプリートしてたら流石に言うてもうたわ~」

どうだろう。私はムカついた。
こんなに都合の良い初夢を見るということは、相当「一富士二鷹三茄子」を意識しながら寝たに違いない。
茄子を詰めた弁当を富士登山に持っていくという、鷹狙いのはなはだしさも気になる。
なんとしても縁起の良い夢を見てやろうという欲の塊であるこいつに、いいことがひとつも起こらない2021年であることを願う。