そもそもチアリーダーという選択自体が珍しいと思いますが、目指したきっかけや経緯は何だったのでしょうか。

「中学3年生くらいからダンスをやっていました。でもチアじゃなくて、ヒップホップベースに合わせて踊るような、まったく違うジャンルのダンスを7~8年ほどやっていました。その後、20才のときに就職活動をして、実は東京で整体師として働いていたんです。でも、やっぱりダンスへの愛情は消えなくて、プロとして働く方法を模索していました。当時はチアにしようとは決めていなかったんです。ただ地元の大阪でプロでダンサーとして働きたいなと。そんな時、地元·大阪のサッカークラブであるガンバ大阪が募集していたんです。ここなら両親も喜んでくれると思ってオーディションに応募しました」

チアは未経験だったんですね。オーディションに合格して、初めて練習したときはどんな気分でした?

 「ガンバチアのディレクターはNFLのダラス·カウボーイズでもチアリーダーをやっておられた檀上欣子さんという方で、世界的にも有名な方です。だから欣子さんに憧れてガンバチアに入る方も多く、必然的に周りのレベルも高くて最初は練習に付いていくだけでも必死でした。でも、絶対に自分に負けたくなかったので、他の人よりも何倍も練習しました。例えばトレーニングメニューがスクワット10回なら、私は20回こなす。それと自宅でできるメニューを考えたり、とにかくトレーニング漬けの日々を続けました。それは今でも同じなんですが」

そんな凄い方がいらっしゃるんですね! これまでのダンス経験は活かされましたか?

 「最初はほとんど経験を活かせなかったですね。チアは動きが全く違うだけでなく、かっこよく踊ろうと思って大きく踊れば踊るほど、すごく自分のクセが出てしまって、ぎこちなくなってしまったんです。そうなると今度はおとなしく踊ってしまって、暗い印象になってしまうという悪循環で…。チアダンスって華やかで明るい印象が大切なんですが、私がこれまで経験したダンスは、どちらかと言えばカッコいい雰囲気で。その違いに最初は凄く戸惑いました」

同じダンスでも難しいものですね。徐々に持ち味を活かしたチアダンスが出来るようになったのでしょうか。

 「そうですね。チアダンスを始めて3年経ちますが、最近は少しずつ意識して出せるようになってきました。特に今季は、カッコいいパフォーマンスも取り入れていて、私の得意な分野なのでイキイキしています(笑)。ファンの皆さんにもそれが少しずつ伝わっていて、SNSなどで話題にしていただいたときは本当に嬉しかったですね! でも、やっぱりチアダンスとしての基本は本当に大切にしています。例えば笑顔一つとってもたくさん種類があるので、普段の生活から表情豊かになれるように意識しています」

笑顔にも種類があるとは思いませんでした。では、実際試合のある日はどんなスケジュールなのでしょうか?

 「試合当日は、キックオフ6時間前にはスタジアムに集合します。だから、試合の開始時間によっては、朝5時に起きするようなこともありますね。まず行うのはリハーサルで、綿密に準備を行い、合間には最終のトレーニングもします。その後、キックオフが近づくと30分間のステージを2回行って、お客さんを盛り上げます。いよいよ試合が始まると、選手入場時のパフォーマンスや試合中のチャントに合わせてのパフォーマンス、そしてハーフタイム用のパフォーマンスなどとにかく動きっぱなしです。ダンスの種類も多岐にわたるので、覚えることがかなり多いんです。例えば、選手それぞれにチャントと呼ばれる応援歌がありますが、まず、誰がどんなチャントなのかを覚えなくてはいけません。加えて、試合中には誰のチャントをいつやるかっていうことが決まっておらず、試合の流れで決まります。だから、チャントが始まるイントロで判断するしかないんですよ。瞬時にどの選手のチャントか判断して、それに応じたパフォーマンスをしないといけません」

選手のチャントだけでも大変なのに、イントロが命なんですね。サッカーフリークの方でも覚えている方は少ないと思います。サッカーに関してもやっぱり勉強されましたか?

 「もちろんです。選手の名前や背番号は当然ですが、チームの由来や勝利の記録、歴史的な知識の筆記試験があります。ほかにも試合中に行うパフォーマンスそれぞれに細かく条件が決められていて、すべてクリアしないと出演ができません」

筆記試験もあるとは、予想以上に厳しいですね。試合が終わってからはどんなことをされていますか?

 「2年目以降からベテランメンバーと呼ばれるんですが、そのなかでも経験の長いメンバーが集まって、反省会をしてます。そうですね、約一時間ほどはロッカールームにいて、さまざまなことを話し合ってから帰ります」

2年目からもうベテランメンバーなんですね。

 「そうなんですよ。ガンバチアは1年契約が基本なので、シーズンが終われば、すぐ来期に向けてのオーディションが始まります。オーディションでは面接と実技があって、実技では振付されたダンスをその場で覚えて踊ります。ガンバチアの経験があっても優遇されることはないので、シーズン終了後すぐにトレーニングを始めます。やっぱり狭き門なので、2年続けるだけでも凄いことなんですよ!」

 毎年契約を勝ち取らないといけないとは、アスリート顔負けですね。技術面だけでなく、体調管理も重要になりそうな気がします。

「その通りです。私たちはメーカーさんからユニフォームを貸していただいている立場なので、それに見合った身体の美しさが当然求められます。ディレクターにチェックしてもらうのですが、単純に痩せていればいいという訳ではなく、健康的な美しさが求められます。私の場合はたんぱく質を多く摂るようにするほか、特に試合前やオーディション前には、自分に足りない栄養素を考え、それを補う食事を心がけています」

チアダンサーとして活躍することは本当に大変なんですね。Yurikoさんが感じるチアの素晴らしさは何でしょうか。

「チアを始めてからは、自分が本当にポジティブになれた気がします。初めは笑顔であったり姿勢であったり、良いチアダンサーであるためにある意味フィジカルな部分を意識したんです。でも、本当に心からポジティブな意識にならないと、よい笑顔も姿勢もできないんですよ。少し大げさかもしれませんが、心を前向きに変えられる素晴らしい競技だと思います。それと、ガンバ大阪というチームが本当に素晴らしい組織で、選手やスタッフをはじめ、周りの皆さんへは感謝しかありません。先ほど試合前の6時間前にはスタジアム入りするとお伝えましたが、それより前にいらっしゃるスタッフの皆さんも居ます。それに、私たちがパフォーマンスをする芝の管理をするスタッフさんもいらっしゃいますよね。そういった方に支えられながら、日々活動をさせていただけることが本当に幸せです。サッカーやチアを楽しんでいただくことはもちろん、チーム全体に興味を持ってスタジアムに足を運んでいただければ嬉しいですね」