乃村工藝社の取り組みについて教えてください。

乃村工藝社は商業施設、ホテル、企業PR施設、展示会イベント、博覧会、博物館、余暇施設などの調査・企画・コンサルティングからデザイン・設計、制作・施工、運営管理まで手掛ける空間総合プロデュース企業です。1892年に創業以来、社会課題の解決につながる空間価値の提供を通じて人びとに「歓びと感動」をお届けしています。事業所がある大阪は当社の歴史上でも大事な地であり、1970年の日本万国博覧会では当社の事業が拡大したターニングポイントの地でもあります。

最近の実績としては、今回取材場所にして頂いたようなワークプレイス乃村工藝社の大阪事業所で第31回日経ニューオフィス賞受賞)や神田明神文化交流館「EDOCCO」に代表される社会貢献性のある施設の総合プロデュースなども増えてきました。また「EDOCCO」で開催される『鈴木敏夫とジブリ展』の主催と、空間活性化や集客という部分にも力を入れています。

 

「フェアウッド·プロジェクト」とは、どのようなプロジェクトでしょうか?

私たちの仕事は何をするにしても木を使います。使い方はさまざまですが、例えば展示会であれば最終的に廃棄する木材もかなり出てしまうのが現実としてあります。そんなこともあり、2008年頃から社内有志で「環境ソリューション委員会」を立ち上げました。環境負荷低減のために私たちができることは何なのか、そのコンセプトメイクの部分からスタートしました。当初はデザインとしてどういう関わり方があるのか、というようなことを考えていましたが、早くから大切にしてきたのがフェアウッドというキーワード。もともとNPO法人のフェアウッド·パートナーズ国際環境NGO FoE Japan(財)地球・人間環境フォーラムによる共同運営)が提唱されたもので、産地が明らかな国産材や森林認証材の使用を推奨するものです。環境ソリューション委員会ができた当時から、弊社はその考えに賛同。2010年から11年にはフェアウッド·パートナーズと共同で、フェアウッドを使った展示をエコプロダクツという展示会に出展しました。そんな経緯もあり、2年ほど前に「フェアウッド·プロジェクト」を家具メーカーと一緒に立ち上げました。木といっても日本全国いろいろな産地があり、作り手や加工業者など多くの方が関わっています。それを私たちが一括でマネジメントすることで、フェアウッドの魅力や価値をより高めていこうというのがこのプロジェクトの目的です。

私たちが「フェアウッド·プロジェクト」を推進している理由はいくつかありますが、輸入木材には違法伐採の可能性があり、海外では罰則も制定されリスクが高まっていること。また、日本の人工林の51%が10齢級以上となり、切り時を迎えていること。そして、今年から森林環境与税が導入され、木を使うことに対して行政からも後押しされていること。この3つが大きな理由です。また、従来は輸入材に比べて国産材の方がコストが高かったのですが、木が余っている状況もあり、現在では国産材も輸入材もほぼ同じ価格となりました。かつては圧倒的に輸入材の方が安かったので、国産材が避けられてきましたが、現実的に国産材を導入しやすい状況になってきているのです。また、エシカル消費フェアトレードといった言葉も叫ばれるようになり、時代感にもマッチした考え方といえるのではないでしょうか。

 

2008年からフェアウッドを推進されていることもあり、時代がやっと追いついてきたという感覚はありますか?

そうですね。動き出した当時は、まだまだ社内でも肩身が狭かったですが、輸入材の価格が上がる一方で国産材が安くなったこと。そして国産材が伐期を迎えつつあることや、林業そのものの市場価値を上げていかなければならない状況が重なり、このプロジェクトの重要性がどんどん高まっていきました。そんななか、私たちが具体的に取り組んでいることは、展示などの骨組みに使う下地材のフェアウッド化、それに各地方の木材情報の収集や関係づくり。各地方の木を材料として使うことで、地場の産業のサイクルが回るようなればと考えています。それに建築業界では、合板を使うことで木造の高層マンションが建築できる可能性も出てきました。これまで以上に木と触れ合える空間をつくり、木の持つ魅力を消費者の皆さんに提案しなくてはと思っています。

 

MOKU LOVE DESIGN』という冊子も、フェアウッドの利用推進に大きな役割を果たしそうですね。

この冊子は昨年10月に弊社が企画プロデュースを担当したものですが木の魅力やデザインを啓蒙するため、さまざまな事例や業界を取り巻く状況などを網羅したものです。発行元は農林中央金庫が設立したウッドソリューションネットワークという団体で、製材会社、商社、ゼネコン、ハウスメーカーなど27の企業が参加しています。まずは参加企業と木の魅力を共有しようという目的で始まりました。この冊子を使って消費者の皆へ一気に拡散したいのではなく、私たちが目指す木の在り方や魅力を丁寧に伝えたいと考えています。

 

最後に、加藤さんが考えられる木の魅力を聞かせてください。

木の素晴らしさは香りや優しい肌触りはもちろん、五感に訴えることができる素材ということ。でもそれ以上に、木はストーリーを持っています。例えば自分の地元で生まれた木を使った製品には、自然と愛着や郷愁感が生まれますよね。木を育んだ人やデザイナーの想いが重なれば、もっと魅力的に感じませんか? 関わる人や地域によって、さまざまな物語を持っている。これこそが木の魅力だと思います。私たちがフェアウッドを推奨する理由もそこにあり、日本で、地元で生まれ育った木を使うことの素晴らしさを、皆さんにもっと感じていただきたいと考えています。例えば私たちが手がけた「日本橋とやま館」は、富山県産の木材や伝統工芸を散りばめた、東京にいながら富山の魅力を感じられるスポットです。地産の木を使うことで、首都圏から地方の魅力を発信することも一つの方法。国産材を使うことが地方創生のきっかけにもなります。香りや見た目といった木が持つ本来の魅力だけでなく、産地や人が関わることで生まれるストーリーを、私たちの取り組みを通じてより多くの人に届けられるようにしたいと考えています。

乃村工藝社オフィシャルサイト
「MOKU LOVE DESIGN ~木質空間デザイン・アプローチブック」