まず、ノイズ音楽とはどんなものでしょうか?
ノイズ音楽というのは、大まかにいうとノイズ=雑音で構成されたものですが、定義があいまいで、アーティストによってもさまざまな表現の方法があるんです。
2000年以前のノイズ世代ではアナログ機材やギターのコード部分の接触によるノイズなどを使ったバンドの延長上のアナーキズムというのがありました。2000年以降ではコンピューターを用いたデジタルノイズが派生、僕はまたそれとは違った音作りをしています。
自然の音と想像の融合クオンタイズやBPMに依存しない、大きな音の波としての空間音響と捉えて音作りを行なっています。
では、山岡さんの音制作について詳しく教えて頂けますか?
フィールドレコーディングで採取してきた音をパソコン上で分解・再構築し一音一音、音の作り込みを行っています。フィールドレコーディングとは山や川など野外で自然の音を録音し、あるがままの光景や情景を再現すること。
フィールドレコーディングをし、そこに自身のエッセンス(表現)を加え、独自の風景、情景を構築しています。低音同士を重ねたり、高音域を音像のピークに付加するなど、音自体を多様化させ、実在のない音響空間制作を中心に活動しています。
何故フィールドレコーディングをするようになったのですか?
20代の前半からはアンビエントのDJをやっていて、4台のターンテーブルやシンセサイザーなどの機材を使ってライブ演奏も行っていました。しかし、続けていくうちに、他者の音を流して賛美されることに劣等感を感じる様になりました。
他者の楽曲以外にも、例えば、シンセサイザーのオシレーター(発振器)もメーカーが作ったもので、KORG(コルグ)やローランドなどのメーカーの音からは抜け出せない。自身を追求していくうちに、感覚に干渉する音を作りたいと思うようになりました。
風の音や川、滝、街頭や人混みの音が、その時その場所でその瞬間しか存在しない音だと感じ、そこに付加する自身の音の情景が湧いてきました。それらは写真や映像ではない、体感した音の記憶、そういった個々に爆ぜる原風景が感覚に残る音だと思い、よりオリジンを追求する結果、フィールドレコーディングにいきつきました。
現在上映中の映画『地蔵とリビドー』という映画で音響を担当されているそうですね。
施設で実際の音を録音・編集し、劇中に入る環境音を担当しました。あるシーンではやまなみ工房の人たちがその場所を去ったあとに、人がそこにまだ存在するような余韻のある音を表現しています。
どういった映画なんでしょうか?
滋賀県にある障害者施設『やまなみ工房』に通所するアーティストたちの創作現場や日常の様子を約1年間密着して製作したドキュメンタリー映像作品です。アウトサイダーアートに造詣の深いジャーナリストや美術関係者などのインタビューを交えて紹介しています。
映画音響についてはもともと興味があったのでしょうか?
映画の音響を作ってみたいというのは若いころからずっとありました。普段何気なく見ている映画でも音だけ集中して聞いていると、ほぼノイズだったりするんですよ。シリアスなシーンとか。ノイズに限らず、「さみしい」、「怖い」、「たのしい」、「うれしい」という感覚、感情を音だけで表現できるってすごくおもしろいなぁと思いますね。
映画のタイトルにもなっている“正巳地蔵”の展示もされたそうですが、どうでしたか?
僕自身、アウトサイダーアートという芸術には実感のない、離れた場所で活動をしていると日々思っていました。
ただ、あるきっかけで『やまなみ工房』を初めて訪問し、『やまなみ工房』の人々の存在を身近に感じたときに、圧倒的な人生に対しての行為(表現)が現実に、しかし非現実とも思える空気感の中で存在しました。そこで山際正巳氏の行為を目の当たりにした際、山際氏の作品が一気にリアルに感じたんです。
そして『結音茶舗』※での展示となりました。展示期間中、山際氏の公開制作をする流れとなり、やまなみ工房で見る山際氏とそこ以外で見る山際氏の感情の出し方に違いがありました。個人個人との感覚の共有、空間の共有ができる場としての結音茶舗を自分自身がプロデュース、運営出来る事実は光栄であると同時に様々な方々への感謝、そして映画へ繋がっていく事への期待を感じられるものとなりました。
※『結音茶舗』:山岡さんが営む日本茶喫茶&バー&ギャラリー
予告編(Short Version)
■「地蔵とリビドー」公式サイト
www.jizolibido.com
上映情報
11/10~12/7 シアター・イメージフォーラム(東京)
11/13フィラデルフィア・アジアン・アメリカン映画祭
12/1~12/14京都シネマ(京都)
12/8~12/21シアターセブン(大阪)
1/30ハーバード大学(ボストン)
DJを経て、感覚に干渉する音を自ら作りたいとフィールドレコーディングをされるようになった山岡さん。
山岡さんが今回音響を担当された映画『地蔵のリビドー』は、現在上映中のシアター・イメージフォーラム(東京)に続いて、この12月からは京都シネマ、シアターセブン(大阪)と、関西方面で順次公開予定。
ものの制作に携わる人にとっては必見の内容なので、臨場感のあるスピーカーで是非とも味わってみてください。
次回のインタビューでは、山岡さんのもう一つの顔「メメンカンチン」での活動と、12/18から行われる展示について伺っています。
こちらも是非チェックを。

山岡勇祐
1984年愛媛県宇和島市生まれ。2001年より大阪にてDJとしての活動を開始。unknown abstractionとしてノイズ音響を中心に4台のターンテーブル他機材を使い、即興音空間でライブ活動を行うスタイルから、2007年よりフィールドレコーディングを中心にPC環境での音制作を開始。knotenへ名義も変更し、ノイズ・アンビエント音楽中心での制作を始める。2013年より日本茶バー『結音茶舗』をオープン。2014年にはsonsengochabaccoとのユニット「 メ メ ン カ ン チ ン 」を結成。現在に至る。 https://www.facebook.com/memencancin/