クライアントと一緒に考えて作ることで、強固な信頼関係が築ける。
だからミスなくフィニッシュまでいける。

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ターニングポイントになったのは、入社4年目にローンチしたWEBマガジン『Refsign Magazine Kyoto』です。一作目では当時流行っていたフルフラッシュであえて作成し、二作目からは新しいカタチは無いのかなと模索しながらリニューアルしました。

二作目のデザインの形はグリットデザイン。この当時はまだ全然浸透していないWEBデザインで、当時は『D&Department』と『Refsign Magazine Kyoto』くらいだったこともあってデザイン誌に多く取り上げてもらいました。

Refsign Magazine Kyoto

Refsign Magazine Kyoto

『Refsign Magazine Kyoto』は、月8万人のユニークユーザーが訪れるサイトに成長し、多方面から声をかけてもらえるようになりました。勤務中は[エニアック]の案件、勤務後に『Refsign Magazine Kyoto』といったこともありました。[エニアック]では堅実な仕事を求められ、何か変化を求められる時は『Refsign Magazine Kyoto』と棲み分けができていたので、毎日刺激的でしたね。当時はいろいろキツかったけど、徐々に松川さんにも認めてもらえるようになって、会社の別軸として活動していけるようになった転機でもありました。

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次第に仕事が増えていき、[アーバンリサーチ]のイベント企画やデザイン、[藤井大丸]の100周年イベントなどにも携わらせてもらえるようになりました。また事務所の1階を表からでも覗けるようなオープンな設計に変更し、トークイベントの開催やデザインギャラリーとして展示なども行っていました。その後、イタリアンレストランの『オステリア テンポ』を作り、すべてのデザインを担当しました。

私自身、ずっと飲食店を自分の手で作り運営までやってみたかったので、とても嬉しかったですね。[エニアック]に入社した理由のひとつに、飲食店の経営を行っていたこともあるんです。立ち上げから内装デザイン、スタッフ募集まで、私自身でできることはすべてやりました。手を抜かず徹底的に挑戦したかったんです。

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5年目くらいから現在も続けている仕事のロジックが固まってきましたね。デザイン単体も数多くさせてもらっていますが、デザインだけ手がけた仕事はあまり記憶に残ってないんですよね。現在のデザイン制作の現場では、考える人と作る人が分業になっています。でも、私自身は企画した人が制作することが最良だと考えていて、それはクオリティだけではなく自己防衛の側面もあります。現在の作り手の立場からすれば、クライアントが本当に望んでいるゴールが見えなくなってしまっているのかなと。そのことが問題だと気付いてからは、企画担当から制作までをするようにしています。

そのため、今だとクライアントから修正はほとんど入らないんですよ。決してハイクオリティだからということではなく、クライアントと一緒に考えて作り上げていくなかで、強固な信頼関係が築けているからこそだと思うんです。当然クライアントのハードルを越えるクオリティは必要ですけどね。

制作する前の段階で、かなり細かい部分まで突き詰めているので、最終のアウトプットでクライアントの考えとの違いはほとんど生まれません。このノウハウは松川さんから学びました。企画書もなく、トークだけでビッグプロジェクトを平然と受注してくるような人ですからね……。いつまで経っても敵わないです。

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遡りますが[エニアック]に入社した時、松川さんには「10年後に辞めます」と伝えました。結果、予定より1年早い9年で辞めることになるんですが、その間は独立に向けて着々と綿密に計画していました。『Refsign Magazine Kyoto』を通して新しい人脈を築き、12ヶ月連続のトークイベント「iroiroトーク」もやりました。その頃から[HOTEL ANTEROOM KYOTO]に住むようになって、後に[iroiroカフェ]の店舗を担当するタニダにも出会いました。

その頃すでに[いろいろデザイン]という屋号で独立することは、8割方決定していたのですが、まだ少し迷いがありました。数多くのデザイン賞を受賞されているグラフィックデザイナーの佐藤卓さんとトークイベントで一緒に登壇する機会があって、「屋号をいろいろデザインでいこうと思っているんです」と相談したら「それいいね」と言ってもらえたのが決め手でしたね。佐藤さんもちょうどその頃“ほどほど”や“いろいろ”といった日本語が気になると話をしていたそうなんですよね。自分自身としても考えが変わってきた頃だったんです。

自分の強みってなんだろうって考えた時に、「過去のいろいろな仕事を通して、グラフィックデザインをベースにボーダーレスにいろいろなデザインする」。多分これだろうなと、すんなり思えて。“いろいろ”って、はっきり言ってちょっとダサいフレーズじゃないですか(笑)。けれど、角が取れてきたというか、カッコいいだけがすべてじゃないんだなと思えるようになって。エンドユーザーが想像しやすいことを、素直に受け入れられるようになってきたんだと思います。

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デザイナーの仕事も八百屋さんや飲食店、どんな仕事も同じ。目の前の人が何を求めているかを把握する連続なんです。

独立後の初仕事は、関西で絶大な支持を集めているセレクトショップ[ロフトマン]のWEBサイト制作でした。独立前から依頼をいただいていたのですが、起業するんですよと伝えたら、「ぜひ最初の仕事にしてください」と言っていただきました。その気持ちがありがたかったですね。未だに強く印象に残っている案件のひとつです。

幸先のいいスタートを切ったのですが、当初は不安しかありませんでした。会社を辞める前にがんばって100万円を貯金したものの、内装ですべて消えました。飲食スタッフのタニダの給料のことを忘れていたくらいだったので……(笑)。これはヤバいと危機感を抱いて、それからは資金運用についてもしっかりと考えるようになりました。今、再び同じ状況で独立しろと言われたら絶対しないですね。無謀すぎました。

現在も継続してデザインの仕事を多く依頼していただいていますが、基本的にはクライアントからの紹介が多いですね。コンサルとは少しニュアンスが異なるかもしれませんが、アウトプットまでのプロセスを考える案件も増えてきました。新規事業に関わったり、デザインのクオリティ管理をしたり。クライアントがよくわからない写真をインスタグラムにアップしていたら、「消してください!」って電話することも(笑)。

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そのほか大学の講師として今年で14年目になりますが、教壇に立たせていただいています。講義内容は毎年テーマを変えていて、昨年は“読み終わった本の価値を再構築する”でした。[東急ハンズ]とタッグを組んで、京都店の一角をお借りして、本を持ってきたら別の本と交換できるというシステム作りからイベント運営までをやりました。今年は“企画を世の中にアウトプットする”をテーマに行っていて、情報を提供してもらったら、何倍もの情報が還元されるといったコンテンツを展開しています。

より良い情報発信するために、限られた予算の中でWEBサイトやDM、インスタ広告などを通じて積極的にアウトプットしていきます。まさに今携わっている仕事を、学生さんたちとやっている感じですね。やっぱり若い感性には刺激をもらいます。よく考えるのは、デザイナーの仕事だからといって特別なことは何ひとつなく、八百屋さんや飲食店のスタッフ、そしてOLさんなど、どんな仕事でも同じだと思います。目の前の人が何を求めているか把握し実行する。その連続なんですよ。

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強く言いたいのは「デザイナー」というのは全く特別な仕事ではなく、そして「アーティスト」でもないということ。すでにあるモノ、例えば商品などを趣味趣向の異なる人々に“どう見せるか”や“どういう気持ちにさせるか”、はたまた“いろいろなシチュエーションをどこまで考えられるか”を突き詰めていくことがデザイナーの役割だと考えています。

その見せ方を考えた後、見た人がどういう風に受け止めたかを知り、次のステップでどういう変更を行い、ブラッシュアップするかをひたすら思考すること。だからデザインを作って終わりではなく、そこからがようやくスタート。そうやって視野を広げれば、デザイナーという職業の実行することや出来ることはまだまだ沢山あると思うんですよね。

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グラフィックデザイナー サノワタル インタビューvol.2「デザインは完成してからがスタート。客観的な目線でブラッシュアップし続けることが重要。」

サノワタルさん

京都·五条でデザイン事務所[SANOWATARU DESIGN OFFICE.INC]を運営。
グラフィックデザインに軸足を置きながら、飲食店の経営や地域をコンセプトにした“いろいろ”な活動を展開。また京都界隈を飲み歩くグルマンな一面も。
http://sanowataru.com/