百々:会場の方で質問はありませんか?
質問01:いい写真というのをどのように捉えられていますか? また他人の評価をどう受け止められていますか?
市橋:難しい質問ですね(笑)。いい写真の定義はないですし、他人の評価では自己判断できない。自分がいいと思ったものがいい写真なんだと思います。
百々:トーマス・ルフという写真家も同じようなことを言ってましたね。写真をほめてくれる評論家は良くない。けなす人は腹が立つけど2番目にいい人。1番いいのは何も言わずじっと見てくれて写真集買ってくれるひと(笑)。そりゃそうですよね。
市橋:他人の評価って気になりますか?
百々:ならないですね。展示してしまったらその場にいたくないし、人がどう見てるかを見ていたくない。
市橋:展示を作っている時は他人に見られること意識していないですよね。完成した時に、そういえば見られるんだなと思うくらい。
百々:写真家の十文字美信さんは展覧会の会期中は朝からずーっと見てるの。どう見てるかをずーっと観察してる。恐ろしいよね。『せっかく来ていただいたんだから、ちゃんと立ち合ってどんな風に見ていただけるのかを見てます』って仰ってました。
市橋:そうゆうのも大事ですよね。つい逃げたくなってしまいますが。
百々:写真集は一人歩きしてくれて、いろんなところで見ていただける。時間も限らない。だから写真集って大好きなんです。でもライブなんだよね、展示は。どう見てもらえるか、感動してもらえるかと思いながら、この空間をどんな風に作り上げるかを考える、そのプロセスが楽しい。だから他人の評価を気にはしないけど、感想など反応は欲しい。
市橋:写真を撮るとはまた違う能力が必要ですよね。
百々:今日みたいにこんなにたくさんの方に見ていただけるのは、作家冥利につきますよね。
市橋:はい、ありがたいです。
質問02:風景を撮ると面白味のない観光写真のようになってしまいます。市橋さんは作品としての風景写真にするために心掛けていることはありますか?
市橋:撮っている時に作品にしようと思っているので、観光写真のようになって残念だなと思うことはありませんね。作品にすることを意識して風景を見ているので。観光写真みたいになるのは、そうゆう見方をしているからかなぁ思います。写真を撮る時だけ意識をしているのではなく、世の中の見方が写真を撮る目になっていて、それ以外の見方をしていないんです。
百々:僕は観光写真になることを最初から拒否している。写真って自分探しのようなもの。自分が出合って嬉しいとか、気になるとか引っかかったものをとにかく拾う。(市橋さんの作品を指さして)この写真ちょっとブレてるでしょ。いきなり鳥が現れたんだと思う。ブレていようが何だろうがよくて、シャッターを切った時はうまく撮ろうなんて思ってもない。ひょいっと現れた瞬間を切り取れるかどうか。アマチュアの人はブレてる写真なんてダメと思いがちですが、琴線に触れてくる風景というのは、こうゆう写真のことだと思うんです。
市橋:自分が撮りたいと思うポイントがわかってるから、撮る時に悩むことはないですね。
百々:そうゆう風に意識していっぱい撮るんです。そしていっぱい捨てるんです。それがポイントみたいなもの探す作業になる。自分を作るというのは捨てさること。それを繰り返して残ったものが自分の世界となり、写真でいうと自分の見え方になるんじゃないかな。
質問03:今回の展示は朝から夜までの一日の流れでまとめているのかなと思ったんですが、普段の写真集のまとめ方を教えてください。
市橋:そうですね、その通りです。今回は4日間くらいで撮ったひとつの街だけでまとめています。多少変わることはあっても毎日同じルートを歩き続けていて、ここにいる時はだいたい何時くらいというのが決まっていたので、その流れでまとめました。
質問者:すごいタイミングで人が写っているなと思うんです。真っ赤なドレスを来た人とか。どうやって撮ってるんですか?
市橋:あれは追っかけました(笑)。他の写真の場合、待って撮った写真もあります。影があってここに人がいたらいいなと思って待ったものもありますし、瞬時に撮らないといけないものは撮ったら逃げる。遠くで見ていいなと思って恐る恐る近づいて、撮ったら逃げる(笑)。
質問04:シャッターを切る動機はなんですか?
市橋:最近気づいたんですが、光と影以外で何にカメラ向けてるのかと考えてみたら、違和感が好きなんだなと思いました。普通の風景の中にあるちょっとした違和感。美しいやカッコイイではなく「ん? これはなんだ?」と感じるものに反応する傾向にあります。自分でコントロールできない知らない状態がそこにあるのがおもしろい。
質問05:朝から夜までこもってプリントをしてもキレイに焼けないことがあるのですが、市橋さんが納得いくプリントを焼けるまでにどれくらいかかっていますか?
市橋:キレイに焼けないというのは、どうゆうところが気になるんですか?
質問者:カラーで焼いていると、人の肌が気に入らないとか…人の肌がキレイになったら次は周りが気に入らないとか。
市橋:それは撮る時に問題があるのかな。私は色味にこだわってなくて、わりとどんな色でもいい。焼いても焼いても気に入らない写真は自分にとっていい写真じゃないんだと思います。いいなと思った写真は焼く時に苦労しない。仕事でうまく撮れなかった写真を苦労して焼くこともありますが、それは大抵いい写真じゃないと思います。いい写真だったら赤かろうが青かろうが自分にとってはいい写真で、焼く時にいろいろ細工しないといけない写真は撮る時がダメだったというか、いいものが撮れていないんじゃないかな。いい写真はいろいろ焼いても最終的にどれもいいってなっちゃう。そんなもんなんですよ。印刷物になって色校チェックの時もどれでもいいですって答えちゃう。そこまで色にこだわりがなくて、撮った時に気に入っていたらどんな色でも大丈夫。
質問06:自分には才能がないと思っていた時を経て仕事をされるようになり、どのような心境の変化があったんですか?
市橋:写真を始めたころって自分の写真最高! って思う時ないですか? 私はあったんです(笑)。そう思ったからこそ写真を続けたのですが、色々な公募展に応募してもそこまで評価されず、理解してくれる人ってそんなにいないんだなと思うことが何回か続き、自分の写真は好きだけど世の中の評価は違うんだなと感じた時がありました。好きな写真を撮り続けることはできるけど、作家として生きていくのは違うんだなと。それに作家としての才能だけでなく欲もなかったんです。表現したいことがそこまでなかった。今も人に何か伝えたいとかアピールしたいというのがあまりありません。撮りたいものはあるけど、それをすごく理解して欲しいという欲がない。
百々:作家としての技法を確立しようという欲はある?
市橋:それはあります。
百々:展覧会も仕事ですがお金を得るためのものではない。もうひとつのもの。むしろプリントにすごいお金がかかるけど広告で稼いでいるからできる。これだけをしていたら持続もできない。市橋さんはこれから10年20年といい仕事をされながら、作品撮りもされていくんでしょうね。
質問08:写真展のテーマをどのように決められていますか? テーマがあって撮りに行くのか、撮りに行って出合ったものからテーマが決まるのか、どちらですか?
市橋:私の場合は後者ですね。自分の中にテーマがいっぱいあって絞り込んでいくタイプではない。撮りたいものはひとつでそれを撮るということ以外できない。そもそもテーマは存在していなくて、自分が撮りたいものを撮ることが全てなんです。
質問09:この美術館で展示をされた意図や感想を教えてください。
市橋:憧れの場所でしたね。
百々:当館は20年以上入江さんの写真を展示して、他の写真家は年に1回くらいでした。これだけの壁面と空間を持つ写真のための美術館って日本では稀有。写真を展示するのに魅力的な場所なので写真家が来られると、ここなら展示したいと仰ってくれます。
市橋:これからのラインナップもすごいですよね。
百々:そうなんです。みんなやりたいと言ってくれて。この美術館のために撮り下ろしてくれる人もいます。なんだか、最後は宣伝みたいになってしまいましたが(笑)。ありがとうございました。
市橋:ありがとうございました。
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入江泰吉記念奈良市写真美術館2018年展覧会予定
2018年 4.14(土)~6.24(日):上田義彦 FOREST 印象と記憶1989-2017
2018年 6.30(土)~8.26(日):川島小鳥
2018年 9.1(土)~10.21(日):永瀬正敏
2018年10.26(金)~12.24(月・祝):野村恵子・古賀恵理子

入江泰吉記念奈良市写真美術館
〒630-8301 奈良市高畑町600-1 JR・近鉄奈良駅より市内循環バスで「破石町(わりいしちょう)」バス停下車徒歩約10分 http://irietaikichi.jp/