百々:カメラの話に戻りますが、今回のカメラはライカ、35mmですよね。ライカって滲みが一眼レフとは違うし、レンズを覗く感覚が中判カメラのRZとは少し違う。ライカはいつから使い始めたんですか?

 

市橋:写真を始めた10代の頃に、初めて自分で買ったカメラがライカだったんです。ずっとライカで撮っていたんですが、お金が無くなった時に売ってしまったんです。

 

百々:結構いい値段で売れたでしょ。

 

市橋:そうですね(笑)。それ以来ずっと中判を使っていたんですが、去年くらいから気分が変わってきて、もう1回35mmで撮りたいと思い出したのでライカを買い直しました。久しぶりにライカで撮ると逆に新鮮ですし、昔の気持ちを思い出します。

 

百々:一眼レフと比べてテンポがちょっとずれるのがいいですよね。

 

市橋:いいですよねー。ラフに撮れる。

 

百々:ボディが小さいしレンズもコンパクトですしね。レンズは何mmを使うことが多いですか?

 

市橋:今回の作品は35mm一本ですね。

 

百々:35mm! また自分の話になってしまいますが、若い頃は28mm使っていて、ちょっと広すぎると感じ、50mmだと近寄り過ぎる感じで距離感がどうも合わない。僕も30代半ば過ぎからずっと35mm。

 

市橋:そうなりますよね。絶妙なレンズです。

 

百々:交換レンズや望遠レンズを持って行くと荷物重たくなるし。選択することがうっとうしい(笑)。35mmは目の代わりに近いからね。今回の作品を見てて35mmくらいかなと思っていました。あと四隅をしっかり見てる。ラフにひょいひょい出合ったものを撮ってるように感じるんですが、画面をしっかり見ている。

 

市橋:元々RZを使っていたので、四隅まできっちり見るタイプだったんです。ライカはレンジファインダーなのでそこまでわからないとはいえ、そのクセが残っているんでしょうね。逆にラフに撮ろうとしてるんですが。

 

百々:それがね、安定感がある。写された世界の向こうがちゃんと届く。四隅が曖昧になっていると、写された世界が見ている側になかなか届かない。大判や中判を使うと、隅々まで見るクセがつきますよね。

 

市橋:そうですね。隅々まで見たいがために中判を使っていたというのもありますね。

百々:じゃあ、次は場所選びについて。仕事でよく海外行かれると思いますが、フィットする場所と通過してしまうような場所とありますよね。今回この場所を選ばれた理由を教えてください。

 

市橋:今回はプラハで撮りました。個人的に自然にあふれていて心が開放されるような場所より、重たい場所が好きなんです。自分の写真はどこで撮っても軽くなるので、重たい場所を選んでバランスを取る傾向があります。プラハはマンガ「モンスター」の印象が強く歴史も暗いので、すごく重たく暗いイメージだったんです。あと、街名の響きがかっこよかった。でも明るい季節だったこともあって、あんまり暗くなかったです。

 

百々:何月くらいに、何日間行かれたんですか?

 

市橋:5月か6月の4~5日間で撮ったものだけで構成しています。元々写真集を作る計画があって、過去4~5年くらいの作品をまとめようと思ったんです。それの最後のシメにする作品を撮るためにプラハに行ったんですが、撮っていたらプラハだけで一冊作ろうってなりました。

 

百々:朝が多いですよね。いつも朝早く起きるの?

 

市橋:日没が21時か22時くらいなので、昼まで撮ると体がもたなくて。朝の4時くらいにホテルを出て夜明けから8時くらいまで撮り、ホテルに戻って昼寝して、日が落ちるくらいからまた撮って…と1日を2回に分けていました。

 

百々:私も海外へ行くとずっと歩いて撮らなきゃいけないんじゃないかという強迫観念があって疲れてしまうので、必ず中抜けしますね。展示されている作品は朝と夕方の独特の光のトーンが良く出てて、影もしっかりあるのがいい。それほど高い建物はあまりない場所だから、景色を見上げるというより寄り添いながら見ているという感じがしますね。

 

市橋:そうかもしれないですね。

 

百々:ガラス越しに見ていたり、ガラスに写り込んでいたり、もうひとつの目を感じるところが魅力的。例えば雨の窓ガラス越しに外を撮っている写真。普通は高いところで遠景撮ると景色にピント合わすのに、ガラスにかかっている滴にピント合わせてるよね。滴が雪のように見える。あと、黒人の女性がホテルのラウンジみたいな所にいる写真がものすごく好きですね。黒味と隙間から見ている感じ。

市橋:盗み撮りしてますからねー(笑)。

 

百々:そう! だからいいのよ。確信犯じゃないところが。ドキドキ感も伝わって、いい時間を過ごしているのが伝わる。

 

市橋:撮っている間はお店に入らないし休憩もしない。ひたすら歩いて、何かありそうだなーと思うとホテルだろうとふらーっと行くんですが、見つからないようにこっそり撮るからあんな感じになっちゃうんですよね。

 

百々:撮影する時って鉄則一人歩き。途中で飲んだり食べたりすると変な間ができて感覚がおかしくなる。座ると立ちたくなくなるし。

 

市橋:分かります! 私がよくするのは教会で休憩するんです。教会は静かだし誰が入ってもいいので。

 

百々:ほんと歩き方が似てる。写真を撮る人はだいたいそんな感じなんかな。水分取るのもコンビニで買うくらい。ただね、夕方になると呑みたいって誘惑に駆られてしまうんですよ。ついつい入ってしまう。そしたらもう撮れない! 見えてはくるけど撮れないんだよね。

 

市橋:夕方って逆に光がキレイになるからテンションあがりますよね。

 

百々:そう、だから呑みに入ったらもったいないんだよね。ちなみに、現地の人と親しくなることはありますか?

 

市橋:全くないですね。誰とも関わらないですし、言葉もほとんど発さないです。

 

百々:市橋さんの写真はふわーっとした印象派に近いね。絵画だとモネとか好きでしょ? その辺りは意識してるの?

 

市橋:好きですね。意識はしてませんが共通点は感じます。人に印象を残すということに。

 

百々:今回130点くらいありますが、全部で何枚くらい撮られました?

 

市橋:50本なので、1800枚。そのうち200枚くらいをプリントして選んでます。

 

百々:最終残ったのは1割くらいやね。選ぶ時の基準は? 撮る時とコンタクトシートから選ぶ時ってまた感覚違いますよね?

 

市橋:違うんですが…、わりと自然に選んでいて、あまり悩まないですね。

 

百々:話は変わりますが、映画やCFも撮られていますよね。

 

市橋:最近だとキリンのコマーシャルとか。あと何があるかな。すぐ忘れちゃうんです。しかもTV見ないから、何が流れているのか知らないんです。

 

百々:映画の現場に立ち会ったことがあるんですが、映画のカメラマンをしたいと思ったことがない、逆に嫌やなと。だって、全てが監督のものでしょ。あらゆるものを独り占め。表現する時も監督がキングじゃないとできない。その一スタッフとして参画するという感覚がないんです。市橋さんはそうゆうのはないんですよね?

 

市橋:百々さんは作家性が強いから。

 

百々:自己顕示欲が強いからね(笑)。

 

市橋:私は逆に演出が苦手なんです。映画は演出や仕上げをしてくれる人がいるので、それをベストな状態で切り取っていく作業に集中でき、自分に合っています。

 

百々:映画の撮影で一番おもしろいと思うことは何ですか?

 

市橋:映像には音と編集があることと、当たり前なんですがカメラが動けることですね。スチールではそれができない。被写体が動くこととカメラが動くことの合わせ技で完成するのが、写真と違ったおもしろさですね。

 

百々:あと言葉。写真を見ている時に音が聞こえてくることはあるけど、写真家は展覧会で音を流さない。見る人が音も風も空気も想像する。そうゆうものを刺激するものであって欲しいと思うよね。映画はやるなら監督で作りたい(笑)。

 

市橋:それがすごい。絶対無理だと思ってます。映画一本監督するってほどの欲がないんです。

 

百々:4/14から上田義彦さんの写真展をするんです。彼は8×10でバシッとピント合った写真を撮る人でCFもたくさん撮ってる、映画も何本かカメラマンで撮ってますよね。でも、やっぱり我慢ならんかったんか、この4月から監督として映画作ってますよ。

 

市橋:へー。ものすごく美しい映画になりそうですね。

市橋織江×百々俊二対談@入江泰吉記念奈良市写真美術館 vol.03

市橋織江×百々俊二対談@入江泰吉記念奈良市写真美術館 vol.02

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