クライアントが持つモノ・コトを
社会的なニーズに沿ってデザインする

「何の事務所ですか?」と聞かれたら、「ソーシャルデザイン事務所」と答えています。大まかにいうと、クライアントが持っているモノ・コトを、社会的なニーズに応えられるようにデザインしてあげる、という仕事でしょうか。「ソーシャルデザイン」という言葉は以前からあるのですが、職種としてはあまり認知されていないかも知れませんね。

クライアントのオーダーは多種多様で、行政組織であれば、公益的なサービスをどのように活用して次の時代につなげていくか、といった依頼が多い。企業の場合は、自分たちが持っている商品やスキルをどう社会にコミットさせれば地域に貢献できるか、さらには販促に結びつくか、という相談が多いと思います。CSRのサポートという言い方もできますね。商品ブランディングなどを手がけることもありますが、そのプロセスの中でも街の人に加わってもらうなど、社会的な影響を持たせながら行うようにしています。

例えば、あるゴミ袋のメーカーさんから「自社のゴミ袋をCSRのチャネルで普及させられないか…」というご相談をいただいたことがあります。色々と協議を重ねる中で「御堂筋を使う人たちの美化意識を上げる“コト的”な動きを発生させよう」ということになり、環境系学部や環境サークルの学生に集まってもらって御堂筋のゴミを拾うムーブメントを立ち上げました。

また、岡山県でブドウのブランディングを行っていますが、ネーミングやタグのデザインなどを考える過程で地域の方たちに関わってもらっています。さらに、アウトプットされたものをどう活かしていくか、ということも一緒に考えてもらうことで地域が持つ資源の活かし方を知ってもらうきっかけにしています。一連のプロセスを通して、それまで関わりのなかった人どうしがつながる機会も生まれています。

公共空間の使い方を
住民が主体的に考える仕組み

いずれも、何かモノをデザインしたのではなく、与えられた課題の達成に向けてたくさんの人が動く「仕組み」をデザインしています。このような課題を考えるとき、デザイナーには大きく分けて2つの仕事があると思っています。1つ目は「好奇心を持つまでのプロセスをコーディネートする」ということ。2つ目は「それを社会のニーズに落とし込めるように操作する」ということです。地域の資源を何かに活かそうと思う原動力は、やはり「好奇心」です。それを引き出し、社会が求めていること、解決してほしい課題にうまく沿う形にアレンジするんです。プロセスとアウトプットの両方を考える必要がありますね。

分かりやすい例としては、八尾市にある久宝寺緑地のワークショップがあります。久宝寺緑地は大阪府が管轄する都市公園で、2014年にエリアの拡張が計画されました。その新しいエリアの設計を決めるプロセスに私も関わったのですが、そこに地域の方々も加わってもらい「どんな緑地にしたいか」「新しい空間で何をしたいか」を話し合う場をつくりました。「久宝寺緑地未来会議」と名付けたこのワークショップでは、それぞれの興味・関心ごとにチームを組んでもらい、方向性を探っていったんです。この「みんなの興味や好奇心を引き出すためのチームづくり」がデザイナーの1つ目の役割ですね。

一方で、それらを社会のニーズにどう落とし込むか、というのが2つ目の仕事。八尾市では若い世代の流出に頭を抱えていますが、原因の1つとして町内会などを通じた世代間の接点が減っていることが挙げられます。でも地元には何かをつくったり教えたりするスキルを持った人はいる。じゃあ、それを子どもたちに教える仕組みをつくればいいんじゃないか、と。みんなから引き出した興味や好奇心を、子どもたちに教える「学校」という形に落とし込んだわけです。

ネイチャー系のことを教えたい、という方や、防犯・防災について教えたいという方など、ワークショップでは本当にたくさんのアイデアが出ました。中にはスケボーを教えようというプロのスケートボーダーもいらっしゃいます。この方針を軸に平成35年の完成をめざして具体的な空間設計と施工が進んでいます。

みんな自分の家を建てるときは必死になって考えるけど、公共空間のことって自分の家のようにあまり考えないですよね。でもこれからは住民一人ひとりがホスト役になる時代。久宝寺緑地未来会議でも「地域の人が自分の家を考えるように緑地を考える仕組みと試み」というテーマを主眼に置いていました。この仕組みづくりをコーディネートすることもデザイナーの領域ですね。

地域が持つ「特別なもの」を
価値のある「資源」に

地域の課題解決やブランディングを考える上で、その地域が持つ資源をいかに見つけるか、そしてそれをどう活かすかという視点が重要になってきます。そこで私が大切にしているのは「地元を持たない」ということ。地元を持ってしまうと、そこになじんでしまって何がノーマルで何が特別か分からなくなるんです。どの地域に対しても常に「よそ者」であることを徹底しています。よそ者の目から見て、自分たちのカルチャーにないものを見つけたら、それは「特別なもの」として提言ができる。ただ、それだけではまだ「資源」とは言えないんです。

「特別なもの」を資源として活かすには、そこで生活を営む人、働く人のモチベーションとスキルを徹底的に把握し、地域にとって必要な価値に変換する作業が必要になります。このプロセスをデザインすることが私の仕事になります。最終的に地域の資源を活かして事業や市民活動をドライブしていくのは私ではなく、地域の人や企業ですので、まずはその人たちがやりたいことや興味のあることを徹底的に把握していきます。そして、その人たちがどんな技術や趣味を持っているのかといったスキルと掛け合わせていきながら活用方法を模索し、徐々に「特別なもの」として地域に求められている価値に昇華させていきます。

そして、地域にとって必要な価値に変換するために必要なのが、「これまでとは違う使い方で、自分や家族、友人が喜ぶことができないか」という視点。既存の資源について別の解釈をすることで、資源として活用する方法が見えてきます。例えば、全く使われていない農地があったとします。それをこれまでと同じように農業をする土地として方法を模索して農地を産業的に使う(=農地を農業の土地として使う)だけでなく、「農」を知ってるおじさんが農地で子供に「農」を教えて遊ばせることで子どもがもっと喜ぶんじゃないか、と。そうすると教育的な価値も出てきますよね。そして農地を農教育や農観光のコンテンツの場所として解釈していくことができれば、地域資源の新しい活用法になります。さらには、それを一見さんで終わらせないために「体験だけでいいのか、あるいは続きものが必要なのか」という議論もできますよね。

一緒にゲームをするくらい
クライアントと仲良くなる

ソーシャルデザインって「仕組み」のような目に見えないものをデザインするので、クライアントからの依頼通りにアウトプットすることが少ないかも知れません。「もっとこうした方が良いのでは」みたいな議論はたくさんしますね。でも、そのためにはクライアントが何を考えているのかを深く知る必要があります。だから私は、まずクライアントと全力で仲良くなるようにしています。一緒にゲームで対戦するくらいまで。言葉を聞いただけでその人の思いをくみ取れているとは限らないですよね。依頼主の人柄や趣味も含めて深く知ることで、良いアウトプットが生まれるような気がします。

ソーシャルデザイナー 檀上祐樹インタビューvol.1「人がつながり、行動するための 「仕組み」をデザインする。」

檀上祐樹

1977年高知県生まれ。学生時代にstudio-Lの前身studio:Lに参画し、家島の「探られる島プロジェクト」などに携わる。2015年にORIGAMI Lab.合同会社設立。2014年 土木学会 市民普請大賞入賞、2015年 ウッドデザイン賞2015受賞。現在は大阪産業大学建築・環境デザイン学科非常勤講師、公益法人いえしまふるさと基金審査員なども務める。 http://origamilab.org/