ブランドのデザイナーやショップを経営している方々に共通していえることは、「自分の信念やこだわりを貫き通して、顧客に気に入ってもらえるかどうか」。顧客に気に入ってもらえなければ売上がなく食っていけない、なかなかシビアな世界だ。それでも関西には時代の変遷に流されることなく、第一線で活躍している大勢のクリエイターがいるのも確か。彼らは何十年以上も自分の信念とやり方で、のし上がってきた限られたカリスマたち。きっと美談だけでは済まされない、泥臭い生き方や方法を経験してきたことでしょう。
自分の信念を貫き通し、成功者になるためには、多少の犠牲も必要である。「裏切り」や「対立」などの経験を重ねることで、成功を勝ち取ることができる。といっても、行き過ぎた場合は法律に引っかかることになるので、ある映画の主人公の一代記を紹介したい。タイトルは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』。後に“石油王”と呼ばれる男が、ひたすら貪欲に金儲けに奮闘し、周囲の人間を傷付けながら孤独と引き換えに巨額の富を手に入れる話。自分の思念や仕事のやり方を信じて、石油を追い求めるひとりの男のストーリーなのですが、タイトルには複雑な意味が込められているそう。「いずれ血に染まる」。殺伐とした荒野に巨大な炎のように真っ黒な石油が吹き上がる様は、アメリカの血液であり、この石油によって人間の欲望が高まり、争いが始まり、血に染まる光景。
この映画が絶賛される所以は、上記のような石油の利権をめぐるといった血で血を洗う争いを描かず、他人をまったく信用できずに、ただ有り余る自我のエネルギーを金儲けに捧げる男の物語を丹念に描いた点である。地味になりそうな描写を天才監督であるポール・トーマス・アンダーソン監督と名優、ダニエル・デイ=ルイスの熱演によって、こってり油マシマシのラーメンのごとく濃厚な人間ドラマに仕上がっているのだ。
主人公にとって少しでも裏切る者は敵、とにかく敵、すべて敵。破壊の対象でしかないようで、一緒に採掘する仲間はただの道具。敵と道具と主人公しか出てこない単純明快な映画であるが、この作品を観るにあたり、万全のコンディションで鑑賞するのが吉。眠気と胸焼けに襲われるから要注意だ(上映時間2時間30分強!)。
【解説】
『ブギーナイツ』、『マグノリア』の鬼才、ポール・トーマス・アンダーソン監督が、20世紀初頭のカリフォルニアの石油産業を背景に家族、宗教、裏切り、そして欲望について描いたヒューマンドラマ。原作は社会派作家、アプトン・シンクレアによる『Oil(石油)』(1927年)。主演は『マイ・レフト・フット』、『父の祈りを』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』のオスカー俳優、ダニエル・デイ=ルイス。第80回アカデミー賞では主演男優賞と撮影賞を受賞した。
【原題】Demolition
【制作年】2007年
【製作国】アメリカ
【配給】ディズニー
【上映時間】158分
【監督】ポール・トーマス・アンダーソン
【キャスト】
ダニエル・デイ=ルイス
ポール・ダノ
ケビン・J・オコナー
キアラン・ハインズ
ディロン・フレイジャー