生まれ育った街や家族など、
ルーツを大切にする。
会社を辞めて、ブランドを立ち上げるタイミングで地元の神戸に戻ってきました。それは、すでに決めていたことで、先ほど話をした三本柱のすべての要素を満たすことでもありました。最初は神戸駅近くの造船所街の一角にアトリエを借りました。
「自分にしかできないこと」、「日本人にしかできないこと」、「自分が進行形で常に刺激を受けたものをカタチにする」。この3つのものを組み合わせるとなった時に、コレクションを作るにあたって海外の革を仕入れるという事は一切考えていませんでした。海外での仕事も長く、100%オリジナルではなかったとしても、自分たちにしかできないものと考えた時に、素材で勝負するべきだと。日本の革の生産の70から80%は兵庫県の姫路市とたつの市です。その生産背景に近いところで、モノづくりやクリエーションを始めないといけないと考えましたね。たまたま生まれが神戸だったこともあります。自分にしかできないということを考えた時、まず自分が小さかった頃のことを考えました。それは、生まれてきた背景です。クリエイティブをするにあたって、自分がどういう人間なのかと考えた時、自分の生まれたところで、自分が何かを作るということが自然なのではないかと。
最初のアトリエを造船所の近くにしたのもクリエイションとして、カバンに使っている金具は船の金具をメインで使用しているので、生産背景に近い場所を選びました。小さい頃から潜水士である父の仕事で使っていたヘルメットやタンクを見て育っているということで、船具をベースに金具を作るということも自分のバックボーンのひとつ。それが自分にとってオリジナルのソースであると捉えました。実際に昔からある造船所を見させてもらい、ガラクタのような中から何かないか探しました。そこで見つけたもので何か作れないかなとか、アトリエの什器に使えそうだなとか、想像を膨らませていたのを今でも鮮明に憶えていますね。
手間をかけるからこそ
クリエイションの濃度が高まる。
2015年にアトリエを今の王子公園に移転し、さらにクリエイションのカタチができてきました。コレクションのサンプル50型はすべて自分たちで作っています。デザインと型紙に加えてサンプルも作ったうえで、職人さんとやり取りをします。通常であれば、デザインを職人さんに渡し、型紙、作り方を考えるところから任せてしまう場合が多いと思いますが、ウチのブランドはそうではなくて。でき上がりのサンプルも一緒に渡すことで、確実に実現するデザインとして見ることができ、修正点が入っても一緒に考えることができます。さらに、そのサンプルと世に出回る商品の差がほとんどないものになります。もちろん手間はかかりますが、その分クリエイションの濃度が高くなります。距離の話だけではなく、クリエイションの“近さ”もクオリティにとって重要ですね。
私が手掛けるバッグの特徴はハンドルです。“日本人にしかできないもの”として刀の柄の編み方をベースにしています。唯一肌に触れる部分であるハンドルに特徴的なデザインを入れ、ブランドのアイコンとしています。ハンドルはすべてアトリエで作り、完成したものを職人さんに送っています。ちなみに、そのハンドルはほとんど私の父親が作っています。もともと手先が器用だったこともあり、いつの間にか私より完成度の高いものを作ってくれるようになりました。
革もすべて自社で購入し、アトリエでチェックします。通常であれば原皮の仕入れは縫製工場が行い、それゆえに金銭的に圧迫するケースが少なくありません。私たちは革も自分で選ぶべきで、縫製工場に仕入れてもらうのは違うと考えています。最初のクリエイションから完成までの工程において可能な限り自分たちが関与することで、クリエイションの濃度をさらに高めます。私たちのお客様はリピートが非常に多く、考え方を理解してくださっています。こういった考え方や生産工程は今後も変わらず続け、さらに良くなるためのブラッシュアップを図ります。
またショールームとモノづくりのアトリエが近いということも重要。見てもらう場としてのショールームと、地道にモノを作る場としてのアトリエ。この両軸が近くにあることで、私たちの考え方を理解してもらいやすくなると考えています。
日本人らしさを忘れることなく、
新しいことに貪欲に取り組む。
新しい革を求めて常に試行錯誤を繰り返しています。最近では、漆の革があります。手もみのシボを作り、革に凹凸を出して、その凸の部分に漆を塗ります。漆というと硬いイメージがありますが、その塗り方だと柔らかさをキープしながら作ることができます。この技術は、昔は侍の甲冑、そして現代でも剣道の武具などに使われています。その漆革をコレクションにも使用し、さらには京都のホテルとコラボレーションもしています。海外の方が日本に来られた際に宿泊されるホテルの客室にあるアメニティボックスやティッシュケース、鏡、カードキー用キーケース、ゴミ箱などを漆の革で作りました。そのホテルでのみオーダーを承り、販売もしています。この協業はカバンとは全く違うジャンルでしたが、クリエイションのさらなる可能性を感じる経験になりました。
今後は、オリジナリティのあるブランドとコラボレーションすることで、自分たちの新しいクリエイションを発展させていきたいと考えています。そこで得た経験を毎シーズンのコレクションに活かしていきたいですね。
人とモノがクロスオーバーする
クリエイティブな場所を目指して。
アトリエに併設しているショールームは、自分たちが海外の展示会で経験してきたことを活かした空間です。ここはギャラリーとしての機能も持ち、日本でモノづくりをされている方々に使ってもらい、刺激を受けてもらって、共有していきたいと考えています。さらに、モノづくりの先にあるアウトプットの方法、表現の考え方と商品をリンクするというやり方を、このスペースで感じていただき、コミュニケーションを深めることで、より多くの人に伝えていければと思っています。よくあるレンタルスペースとは違って使っていただく方にとって意味のある場所、インスピレーションを得られる場所にしたい。ここをベースにいろんな業種の方とコミュニケートすることで、新たなものを生み出せればいいですね。来年は自分たちの企画展として海外のギャラリーをそのまま持ってきたり、国内外のフォトグラファーやアーティスト、作家を呼んだりして、このギャラリーで発表できるようにしていきたいです。皆さんにまだ見たことのない“いいもの”を見てもらえる機会になればと考えています。
最後の最後になりますが、ブランドのコンセプトとしては、カバンを通じて日本のモノづくりや文化を全世界の人たちに伝える一端になるということ。それと日本におけるアートやカルチャーなどの文化的な成熟の一端を担うブランドでありたい。なかなか時間のかかることですが、質の高いコレクションを地道に作り続けていくことがひとつの在り方だと思っています。これからも恵まれた出会いを大切にしながら、徐々にステップアップしたい。自分たちがいいものやおもしろいもの、ほかにないものを追求しないとブランドも発展しない。そのスタンスは変わりません。

岩永大介
2007年秋冬より、バッグブランド「コーネリアン タウラス バイ ダイスケ イワナガ」を本格的にスタート。日本の文化やアイデンティティをプロダクトに落とし込む。また神戸の王子公園にてブランドのショールーム兼ギャラリースペース[Cultivate Gallery]を運営。
http://www.corneliantaurus.com/
http://www.cultivateindustry.com/main.html