デザイナーの仕事って、正常と異常のボーダーラインに立っていて、ギリギリの危うさの中で仕事をしているのが日常である。
クライアントからの無茶ぶりや短納期仕事、お金にならないコンペ案件など、疲労とストレスがつきまとう。
そして何より、自分自身との闘いでもあり、ディスプレイの中ではアイディアの破壊を繰り返すのがデザイナーの仕事だ。

プロとして働くようになって、いかに自分の発想やアイデアが凡庸なのか思い知らされることが多々ある。
MACに向かいながら、「あーでもない、こーでもない」と日々葛藤している自分がいる。

そして無性にMACを破壊したくなる衝動に駆られる。
このMACを破壊すれば、スティーブジョブスから誰も思いつかないデザインのアイディアが舞い降りてくるのではないのか?と異常な考えをしてしまい、ふと立ち止まる。

そんなときに、「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」という映画に出会った。
妙に詩的な長ったらしい邦題なので、一見日本の甘酸っぱい純愛映画かと思われがちなのだが、英語の原題は「Demolition」(爆破、破壊という意味)である。
そして、まったくデザイン的な仕事の映画ではない。

気になる映画の内容は、美しい妻が交通事故で亡くなったにも関わらず、涙一つ出ず自分自身に対して疑問を持ったエリートビジネスマンである主人公が亡くなった妻の父親から言われたアドバイス「壊れたものは、一旦全て分解してみるしかない」を真に受けてしまい、勤務先のトイレの立て付けが悪かったので、トイレのドアを解体。続いて勤務先の自分のパソコンを分解し、自宅の冷蔵庫まで分解するようになった。

なぜそのような行動を頻繁に行うのかというと、衝動に任せ自分の身の回りのものを壊して分解することで、いつしか自分の心の中を徹底的に解体し、組み立て直せるような気がしていたから。
自分自身の心の奥底を知るために、自宅にあるものを解体し、会社の備品までも解体し、そして最後には、自宅までを徹底的に破壊しつくす行動には、妙に解放的で、映画を見ているだけで、自分が目の前にあるMACを破壊したくなる衝動を和らげてくれ、一種の癒やしを感じられる。

疲れているときにこの映画を見ると、破壊したくなる衝動が緩和され、元気を貰える。
仕事や人生に疲れ気味の人にこそ、見てほしい一本であり、
若者ではなくなってしまった、我々の自分探しをするのに、この映画はオススメである。

【解説】
「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャン=マルク・バレ監督が、「ナイトクローラー」「サウスポー」の演技派ジェイク・ギレンホールを主演に迎え、妻の死にすら無感覚になってしまった男が、身の回りのものを破壊することで、ゼロからの再生へと向かっていく姿を描いたドラマ。
ウォール街のエリート銀行員として出世コースに乗り、富も地位も手にしたデイヴィスは、高層タワーの上層階で空虚な数字と向き合う日々を送っていた。
そんなある日、突然の事故で美しい妻が他界。しかし、一滴の涙も流すことができず、悲しみにすら無感覚に自分に気付いたデイヴィスは、本当に妻のことを愛していたのかもわからなくなってしまう。
義父のある言葉をきっかけに、身の回りのあらゆるものを破壊し、自分の心の在り処を探し始めたデイヴィスは、その過程で妻が残していたメモを見つけるが……。

【原題】Demolition
【制作年】2015年
【製作国】アメリカ
【配給】ファントム・フィルム
【上映時間】101分
【監督】ジャン=マルク・バレ
【キャスト】
ジェイク・ギレンホール
ナオミ・ワッツ
クリス・クーパー
ジュダ・ルイス